コンビニの奇妙な客
1
「あ、あの、すみません……」
深夜のコンビニ、レジカウンターでバイトをしている僕に、酔っ払ったサラリーマン風の男が話しかけてきた。
夜も更けて、客はまばらだ。
「この辺で、えーと、なんか、こう、熱い話、できるところ、ありますか?」
「熱い話、ですか? あの、どういった……?」
男はグラス片手に、虚ろな目で僕を見つめた。
酔っているだけではない、何か別のものを宿しているような、奇妙な光があった。
「いや、ほら、最近さ、なんかこう、世の中、おかしいだろ? なんか、こう、みんな、同じ方向向いてるというか……」
男は言葉を探しながら、ゆっくりと続けた。
「創価学会の会合も、統一教会の集まりも、幸福の科学のイベントも……。
なんだか、みんな、同じことばっかり言ってる気がしてさ。
僕だけ、取り残されてるような……」
彼の言葉に、背筋が凍るのを感じた。
彼は、僕が昨夜、テレビで見た「朝まで生テレビ」の討論を思い出していたのだろうか。
政治家も、評論家も、タレントも、皆が声を荒げながらも、どこか同じような論調で喋っていた気がする。
「それで、君に聞きたいんだ。
君は、どう思う? この世の中、どこに向かってると思う?」
男は、僕の返答を待つように、じっと見つめてくる。
その視線は、僕の脳髄の奥深くにまで染み込んでくるようで、逃れることができない。
「え、えっと……」
僕は、言葉に詰まった。
どう答えたらいいのだろう。
彼を安心させる言葉?
それとも、彼の不安に寄り添う言葉?
「いや、別に、君が悪いわけじゃないんだ。
ただ、なんか、こう……」
男は、ふっと息を吐き、コンビニの棚に並ぶお菓子に目をやった。