コンビニの奇妙な客

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「あ、あの、すみません……」 深夜のコンビニ、レジカウンターでバイトをしている僕に、酔っ払ったサラリーマン風の男が話しかけてきた。 夜も更けて、客はまばらだ。 「この辺で、えーと、なんか、こう、熱い話、できるところ、ありますか?」 「熱い話、ですか? あの、どういった……?」 男はグラス片手に、虚ろな目で僕を見つめた。 酔っているだけではない、何か別のものを宿しているような、奇妙な光があった。 「いや、ほら、最近さ、なんかこう、世の中、おかしいだろ? なんか、こう、みんな、同じ方向向いてるというか……」 男は言葉を探しながら、ゆっくりと続けた。 「創価学会の会合も、統一教会の集まりも、幸福の科学のイベントも……。 なんだか、みんな、同じことばっかり言ってる気がしてさ。 僕だけ、取り残されてるような……」 彼の言葉に、背筋が凍るのを感じた。 彼は、僕が昨夜、テレビで見た「朝まで生テレビ」の討論を思い出していたのだろうか。 政治家も、評論家も、タレントも、皆が声を荒げながらも、どこか同じような論調で喋っていた気がする。 「それで、君に聞きたいんだ。 君は、どう思う? この世の中、どこに向かってると思う?」 男は、僕の返答を待つように、じっと見つめてくる。 その視線は、僕の脳髄の奥深くにまで染み込んでくるようで、逃れることができない。 「え、えっと……」 僕は、言葉に詰まった。 どう答えたらいいのだろう。 彼を安心させる言葉? それとも、彼の不安に寄り添う言葉? 「いや、別に、君が悪いわけじゃないんだ。 ただ、なんか、こう……」 男は、ふっと息を吐き、コンビニの棚に並ぶお菓子に目をやった。
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怖さを変えて作り直す

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