凶暴なカステラ

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僕の記憶は、いつからか曖昧だ。 いや、正確には「喪失」というよりは「置き換え」に近いのかもしれない。 最近、部屋の片付けをしていたら、懐かしいものが出てきた。 いや、正確には「懐かしい」という感情が、無理やり植え付けられたような感覚。 それは、子供の頃によく買ってもらった、あのキャラクターものの貯金箱だった。 ピンク色の、丸っこい豚の貯金箱。 ずっしりと重みがあって、触るとほんのり温かい。 そうだ、これでお小遣いを貯めて、欲しかったゲームソフトを買ったんだ。 あの頃は本当に楽しかったな。 …と、そこまで考えたところで、ふと我に返る。 僕、そんなにゲーム好きだったっけ? むしろ、昔からゲームは苦手で、すぐ飽きてたはずだ。 それに、この豚の貯金箱、どう見ても僕が持っていたものとは違う。 僕のはもっと、こう…安っぽいプラスチック製だった気がする。 でも、なぜか「そうだ、これだ」と確信してしまう自分がいる。 そんな奇妙な感覚に囚われながら、僕はその貯金箱を眺めていた。 すると、貯金箱の底に、小さな文字で何かが刻まれていることに気づいた。 「凶暴なカステラ」と。 なんだこれ? 冗談か? 誰かがイタズラで書いたのか?
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怖さを変えて作り直す

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