美容院の「僕」
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高校時代、僕は「おちゅーしゃ張り切ります」というニックネームで呼ばれていた。
それは、注射が大の苦手だったからだ。
血液検査のたびに泣きわめき、予防接種の日は学校を休むほどだった。
そんな僕が、大人になってから一人暮らしを始めたアパートの近くに、
評判の良い美容院ができた。
髪を切ってもらうくらいなら、と意を決して予約を入れた。
当日、緊張しながら美容院のドアを開けると、店員さんが笑顔で迎えてくれた。
しかし、その笑顔がなんだか生理的に受け付けなかった。
目が笑っていないというか、無理やり貼り付けたような、乾いた笑みに見えたのだ。
椅子に座ると、鏡越しに店員さんと目が合った。
その瞬間、頭のてっぺんからつま先まで、ゾワっと悪寒が走った。
店員さんの顔が、僕の顔と寸分違わず、瓜二つだったのだ。
いや、瓜二つというより、鏡に映っているのは、僕自身ではなく、
別の、まるで僕の皮を剥いで貼り付けたかのような、不気味な「僕」だった。