「壁に張り付く女がいた。二度と行かない。」
俺は、背筋が凍るのを感じた。
俺だけじゃなかったのか。
そして、その数日後、俺は自分の部屋の壁に、ある奇妙な現象が起きていることに気づいた。
壁紙の端が、少しだけ、ずり落ちているような気がしたのだ。
そこから、あの甘ったるい、生臭いような臭いが、微かに漂ってきているような気がした。壁に張り付く女
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ラブホテルの「禁断の果実」という名前の部屋に、俺はいた。
週末の夜、彼女と別れたばかりで寂しくなった俺は、予約サイトで一番空いていた、ちょっと派手な名前のラブホテルに飛び込んだんだ。
部屋に入ると、妙な臭いがした。
消毒液と、それから…なんだろう、生臭いような、甘ったるいような、形容しがたい臭い。
ベッドに横になると、天井の照明がぼんやりと異常に明るく感じた。
壁紙はピンク色で、ところどころ剥がれかけている。
そこで、ふと気配を感じた。
誰かいる?
最初は気のせいかと思った。
でも、だんだん確信に変わってきた。
部屋の隅、クローゼットの陰に、誰かいる。
恐る恐るそちらを見ると、そこにいたのは、信じられない光景だった。
「…え?」
そこには、全裸の巨乳ブロンド美女が立っていた。
いや、立っていた、というより、壁に張り付くように、ずり落ちそうなのを必死でこらえている、という方が近かった。
俺は腰を抜かした。
何かのドッキリか?いや、そんなはずはない。
彼女は俺の方を向いた。
その顔は、まるで人形のように無表情で、目は大きく見開かれているのに、何も映っていないようだった。
「…あの…」
俺が声をかけると、彼女はゆっくりと、ゆっくりと、俺の方へ歩き出した。
いや、歩くというより、壁から剥がれるように、ずるずると滑ってくる。
そして、俺のすぐそばまで来ると、その巨乳が俺の顔に押し付けられた。
生温かい、妙な感触。
そして、あの臭いが一層強くなった。
「…っ!」
俺は反射的に顔を背けた。
その時、部屋のドアがゆっくりと開いた。
「…あれ?」
そこにいたのは、さらに信じられない光景だった。
さっきのブロンド美女と同じように、全裸で、壁に張り付くようにこちらを見ている、貧乳の美女。
「…え…?」
二人の美女は、俺を挟むようにして、壁に張り付いている。
そして、ゆっくりと、ゆっくりと、俺の方へ近づいてくる。
「…うわぁぁぁ!」
俺は叫び声をあげて、部屋から飛び出した。
ロビーにいたフロントの男は、怪訝な顔をしていたが、俺は構わず外へ飛び出した。
外は、もう夜だった。
俺は、あのラブホテルの部屋のことを、誰かに話すべきか、それとも、ただの疲労からくる幻覚だったと片付けるべきか、必死に考えていた。
数日後、俺はふと、あのホテルの予約サイトを見てみた。
あんなに派手な名前だったのに、もう「閉鎖」の文字が表示されていた。
そして、そのホテルのレビュー欄に、一つの書き込みがあった。
— END —
このお話、どうだった?
こわい話ソムリエの一言
「ラブホテルの部屋で壁に張り付く美女って…!想像しただけでゾッとするけど、なんだかんだで最後まで読んじゃう展開だよね。最後のオチで、自分も同じ目に遭うかもって思わせるのが憎いね!」