消化

1
人食いおばけの館 「ねぇ、知ってる? この辺に『人食いおばけの館』って噂のある廃墟があるんだって」 大学のサークル仲間、健太がニヤニヤしながら言った。 場所は、昔からちょっと曰くつきの森の奥。 地元でもあまり近づかない、っていうか、その存在すら忘れ去られかけていたような場所だ。 「人食いおばけ? そんなの子供だましじゃん」 そう返しながらも、俺はなんだか胸騒ぎを覚えた。 健太の顔が、いつもより少しだけ、いや、かなり歪んでいるように見えたからだ。 「まあ、冗談なんだけどさ。 でも、最近、あの辺で奇妙な噂があってね。 夜中に『助けて』って声が聞こえるとか、変な光を見たとか。」 健太は、さらに核心に触れるような口調で続けた。 「でも、一番ヤバいのは、そういう噂を聞いた人間が、数日後に忽然と姿を消すってことらしいんだよ。 まさに『人食い』って感じだろ?」 この「人を食ったような話」をする健太の顔が、俺にはなぜかすごく滑稽に見えた。 いや、滑稽というよりは、不気味なほどに落ち着いていた。 まるで、その「噂」を誰よりもよく知っているかのような、あるいは、その「噂」そのものを操っているかのような、そんな底知れない影が、彼の表情の奥にちらついた気がした。 「で、今週末、みんなで行ってみようかって話になったんだ。」 「え、マジで?」 「お前も来いよ。 俺、お前が一番怖がりそうだから、面白そうだなって思って。」 断る理由も、断る気力も、俺にはなかった。 むしろ、健太の「人を食ったような」誘いに、俺は抗えない力で引き寄せられていくのを感じていた。
1 / 5

怖さを変えて作り直す