消化
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人食いおばけの館
「ねぇ、知ってる?
この辺に『人食いおばけの館』って噂のある廃墟があるんだって」
大学のサークル仲間、健太がニヤニヤしながら言った。
場所は、昔からちょっと曰くつきの森の奥。
地元でもあまり近づかない、っていうか、その存在すら忘れ去られかけていたような場所だ。
「人食いおばけ? そんなの子供だましじゃん」
そう返しながらも、俺はなんだか胸騒ぎを覚えた。
健太の顔が、いつもより少しだけ、いや、かなり歪んでいるように見えたからだ。
「まあ、冗談なんだけどさ。
でも、最近、あの辺で奇妙な噂があってね。
夜中に『助けて』って声が聞こえるとか、変な光を見たとか。」
健太は、さらに核心に触れるような口調で続けた。
「でも、一番ヤバいのは、そういう噂を聞いた人間が、数日後に忽然と姿を消すってことらしいんだよ。
まさに『人食い』って感じだろ?」
この「人を食ったような話」をする健太の顔が、俺にはなぜかすごく滑稽に見えた。
いや、滑稽というよりは、不気味なほどに落ち着いていた。
まるで、その「噂」を誰よりもよく知っているかのような、あるいは、その「噂」そのものを操っているかのような、そんな底知れない影が、彼の表情の奥にちらついた気がした。
「で、今週末、みんなで行ってみようかって話になったんだ。」
「え、マジで?」
「お前も来いよ。
俺、お前が一番怖がりそうだから、面白そうだなって思って。」
断る理由も、断る気力も、俺にはなかった。
むしろ、健太の「人を食ったような」誘いに、俺は抗えない力で引き寄せられていくのを感じていた。