缶詰の底に、小さな穴が開いていた。そして、その穴からは、まるで粘液のようなものが漏れ出していた…
最前線の隠し味
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「よし、これで最後だ」
ウラジミール・ラスプーチンは、塹壕の底で泥にまみれた缶詰を手にしていた。
それは、故郷の母が送ってくれた、特別なボルシチだった。
「こんなところで、母さんの味とはな…」
彼はスプーンで一口すくった。
だが、その瞬間、口の中に広がるのは、いつもの甘酸っぱいトマトの風味ではなかった。
それは、金属のような、乾いた、そして…血の匂い。
「なんだ…これは…」
ラスプーチンは顔色を変え、慌てて缶詰を地面に落とした。
缶詰は転がり、中身が地面に広がる。
それは、確かに母が送ってくれたボルシチのはずだった。
しかし、そこに混じっていたのは、赤黒い、粘り気のある液体。
「まさか…」
彼は戦友が話していた、『最前線では、兵士の血が食料に混入することがある』という噂を思い出した。
「これは…ボルシチじゃない!俺の血だ!」
ラスプーチンは、そう叫びながら、震える手で銃を握りしめた。
— END —
このお話、どうだった?
こわい話ソムリエの一言
「お母さんのボルシチが、まさかそんなことになるなんて…。「俺の血だ!」って叫ぶシーン、ちょっとシュールで笑っちゃったけど、状況を考えるとゾッとするね。」