消えた武術家
2
かつて、世界最強の武術家と謳われた男がいた。
彼はあらゆる流派の奥義を極め、その武勇伝は数知れない。
だが、人生最後の修行の場として選んだのは、地図から消えかけたような、ど田舎の部落。
そこには、人知れず潜むという、狂気の殺人集団の噂があった。
部落は、どこまでも続く田畑の向こうに、寂れた家々が点々と存在するのみ。
男が訪れたのは、夏も終わろうとする頃。
蝉の声は既に力なく、風の音ばかりが耳についた。
集落の入り口には、古びた鳥居が立っていたが、その先にあるはずの神社は、跡形もなく崩れ落ちていた。
男が部落の中を進むと、住民らしき人影がちらついた。
しかし、どれも奇妙に動きが鈍く、視線が合ってもすぐに顔を背ける。
まるで、生きた人間ではないかのようだった。
男は、その異様な雰囲気に、修行の厳しさ故の幻覚かとも思ったが、次第に背筋に冷たいものが走り始めた。