消えた武術家

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かつて、世界最強の武術家と謳われた男がいた。 彼はあらゆる流派の奥義を極め、その武勇伝は数知れない。 だが、人生最後の修行の場として選んだのは、地図から消えかけたような、ど田舎の部落。 そこには、人知れず潜むという、狂気の殺人集団の噂があった。 部落は、どこまでも続く田畑の向こうに、寂れた家々が点々と存在するのみ。 男が訪れたのは、夏も終わろうとする頃。 蝉の声は既に力なく、風の音ばかりが耳についた。 集落の入り口には、古びた鳥居が立っていたが、その先にあるはずの神社は、跡形もなく崩れ落ちていた。 男が部落の中を進むと、住民らしき人影がちらついた。 しかし、どれも奇妙に動きが鈍く、視線が合ってもすぐに顔を背ける。 まるで、生きた人間ではないかのようだった。 男は、その異様な雰囲気に、修行の厳しさ故の幻覚かとも思ったが、次第に背筋に冷たいものが走り始めた
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怖さを変えて作り直す