福来軒の晩餐
1
僕の最近の楽しみは、
仕事帰りに近所の台湾中華料理店「福来軒」で一人で夕食をとることだ。
安くて美味しく、特に「衝撃!人食い生姜焼き定食」という、そのまんまの名前のメニューが絶品で、いつも注文してしまう。
ある晩、いつものように生姜焼き定食を頼んだ。
店員が持ってきたそれは、いつもと少し違った。
生姜焼きが、ほんの少しだけ、こちらを「見ている」ような気がしたのだ。
気のせいだろう。
しかし、箸で一切れ口に運ぼうとした瞬間、
生姜焼きが、かすかに、本当にわずかに、ピクリと動いたように見えた。
「……気のせいか。」
そう自分に言い聞かせ、もう一度箸を伸ばす。
すると、今度は間違いなく、生姜焼きの端っこが、ゆっくりと、だが確かに、僕の箸の先に向かって伸びてきた。
「うわっ!」
思わず声が出た。
周りのお客さんは誰も気づいていない。
店員もカウンターの奥でスマホをいじっている。
「…まさか、生姜焼きが、僕を食べるなんて…」
そんな馬鹿なことがあるはずない。
だが、目の前の生姜焼きは、さっきよりも明らかに生命感を持っていた。
さらに奇妙なことに、定食のご飯が、まるで生き物のように、ゆっくりと盛り上がったり沈んだりしているのだ。
まるで、生姜焼きの呼吸に合わせて、ご飯も呼応しているかのようだ。
僕は恐怖で体が動かなくなった。
生姜焼きは、ゆっくりと、しかし確実に、僕の箸の隙間から滑り込んできて、僕の指先を舐めるように触れた。
その感触は、ぬるりとしていて、ぬくとい。
それは、まさに『食われる』という感覚だった。
— あなたはどうする? —