テセウスの箱

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僕の部屋のクローゼットの奥に、いつからか奇妙な箱が置かれていた。 金属製で、継ぎ目のない漆黒の筐体。 何の変哲もない箱なのに、触れるとひやりとした冷気が指先を刺した。 大学の同期で、今は美術史を専攻しているアンドロギュノスが、かつて「テセウスの船」のパラドックスについて熱弁していたのを思い出す。 船の部品を全て交換し続けたら、それは元の船と同じと言えるのか、と。 この箱も、僕の日常から、少しずつ、でも確かに、僕自身を侵食している何かだったのかもしれない。
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怖さを変えて作り直す

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