静寂を嗤う移動体
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僕が勤務する岡山県立アデルバイジャン記念博物館は、妙な場所だった。
収蔵品の大半は西アジアの民俗資料で、地元住民の関心は薄い。
だから、静かで、僕にとっては好都合だった。
ある日の夜間警備中、僕は資料室の監視モニターを見ていて、奇妙なものを見つけた。
モニターに映っていたのは、エントランスホールだ。
誰もいないはずなのに、一瞬だけ、アスファルトをタイヤで切り付けながら、どこかへ向かう車椅子の車輪のような、黒い影が滑るように動いた。
それは一瞬で消え、モニターはただの無機質な空間を映し出す。
「疲れてるんだな」と自分に言い聞かせた。
ただの光の反射か、あるいは古いカメラのノイズだろう。