腹を空かせたおばさん
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小学校の裏手には、
鬱蒼とした森が広がっている。
僕が中学二年生の時、
この小学校に赴任してきた副校長先生が、
妙な噂を耳にするようになった。
「森の小熊が、時々『腹を空かせたおばさん』に変わる」と。
最初は単なる子供たちの悪戯かと思っていた。
しかし、その噂は徐々に現実味を帯びてきた。
放課後、森の入り口で遊んでいた女子生徒が、
森の中から現れた「おばさん」に連れ去られたというのだ。
警察は捜索したが、何も見つからなかった。
ただ、そのおばさんが履いていたという、
異様に汚れたゴム長靴だけが、
森の入り口にぽつんと残されていた。
僕はこの事件に強い関心を抱き、
一人で森の調査を始めた。