料理教室の残滓

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「あら、麦茶、もうすぐ教室始まるわよ?」 母の声に、私はリビングのソファから顔を上げた。 テーブルには、昨夜冷やしておいた麦茶が、水滴を光らせながら鎮座している。 今日の予定は、近所の公民館で開かれる、年に一度の「お料理教室」の特別クラス。 今回は「家庭で作る本格中華」というテーマで、話題のシェフが来るらしい。 「はーい」 返事をしながら立ち上がった瞬間、ひんやりとしたものが足元にまとわりつく感覚があった。 見下ろしても、何も落ちていない。 「気のせいか…」
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怖さを変えて作り直す