アーロン・マスクの影
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公民館の掲示板で、偶然知った。イーロン・マスクさんの講演会がお年寄りパソコン教室で開かれると。
まさか、あのイーロン・マスクが、この寂れた町に?
しかも、場所はお年寄りパソコン教室。
講演会と聞いて、もっと大きな会場を想像していたが、どうやら今回は、地域住民との交流を深めるのが目的らしい。
当日、会場には多くの年配の方が集まっていた。
私も、その一人だ。
イーロン・マスクさんは、想像していたよりもずっと気さくな人物で、パソコンの基本操作から宇宙開発の最新情報まで、私たちに分かりやすく語りかけてくれた。
質疑応答の時間になると、皆、目を輝かせながら質問した。
私も、ずっと疑問に思っていたことを尋ねてみた。
「マスクさん、あの…アーロン・マスクという方も、同じようなことをなさっていると聞きましたが、何か関係があるのでしょうか?」
私の質問を聞いた瞬間、会場の空気が一変した。
イーロン・マスクさんの顔から、ふっと笑みが消えたのだ。
そして、ゆっくりとこちらに顔を向け、静かに言った。
「アーロン・マスク…ですか。
そのような人物は、私の知る限り存在しません。」
その声は、講演会の時とは明らかに違う、冷たい響きを帯びていた。
私は、何かまずいことを聞いてしまったのだろうかと不安になった。
講演会は滞りなく進み、イーロン・マスクさんは会場を後にした。