壁の子供
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大学に入り、初めて一人暮らしを始めた俺が選んだのは、家賃の安さから決めた、築40年近いボロアパート。
壁は薄く、隣の部屋のいびきすら聞こえるような所だったが、まあ、仕方のないことだと割り切っていた。
だが、ひとつだけ、どうしても気にかかることがあった。
それは、夜中に時折聞こえてくる、子供の泣き声のような音だ。
最初は、隣や階下の住人が子供を育てているのかと思った。
しかし、何度か耳を澄ませてみても、それはどうも、俺の部屋の中から聞こえてくるような気がしたのだ。
壁を伝ってくるのか、あるいは、天井裏か、床下か。
そんなことを考えているうちに、その音は次第に俺の日常に溶け込んでいった。
疲れてくると、つい「またか」と聞き流してしまうくらいには。