知能指数(QI)テスト
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最近、オンライン学習塾の講師のバイトを始めた。
「学力偏差値」なんて言葉はもう古いらしい。
今は「知能指数」だとか「IQ」だとか、とにかく頭の良さを数値化したがる傾向にあるらしい。
そんな時代だから、うちの学習塾では「QIテスト」という独自のテストを導入していた。
「学習能力指数」の略だとか。
テストといっても、数学や国語の問題ではない。
「あなたは、ある日突然、見知らぬ誰かから「私とあなた、どっちがより『賢い』か、証明してみない?」とSNSでメッセージが届きました。どうしますか?」
こんな風に、提示された状況に対する対応を記述する形式だ。
「賢い」の定義なんて曖昧なのに、生徒たちは真剣に回答を考えていた。
そんな中、僕の元に届いたメッセージ。
「君のQI、僕より高いんだって?証明してみなよ。」
差出人は不明。
最初は、生徒か、あるいは同僚の悪戯かと思った。
でも、そのメッセージは、僕のスマホのSNSアプリからではなく、なぜか「メモ帳」アプリに、あたかも最初から存在していたかのように、表示されていた。
しかも、そのメッセージは、僕が普段使っているアカウントとは全く別の、架空のアカウントのものだった。
検索しても、そんなアカウントは存在しない。
「証明しろ」という言葉に、妙なプレッシャーを感じた。
僕は、反射的に「メモ帳」アプリに「どうやって?」と打ち込んだ。
すると、すぐに返信のような形で、新しいメモが生成された。
「簡単だよ。
君が、僕に「これは異常だ」と認識できる何かを、一つでも見つけられたら、君の勝ち。
見つけられなければ、僕の勝ち。」
「異常」な何か、か。
僕は、普段から「QIテスト」の回答を考えるように、あらゆる可能性を思考した。
スマホの動作がおかしいのか?
でも、そんな様子はない。
学習塾のパソコン?
いや、これも普通に動いている。
もしかしたら、これは何かのバグや、AIによる自動生成されたメッセージなのではないか?
しかし、そんなことはAIの完全排除という原則に反する。
僕は、それまで築き上げてきた「リアリティの追求」という鉄則を思い出していた。
AIではない、人間が、僕に何かを仕掛けてきているのだ。
しかし、一体、何が「異常」なのか。
「異常」とは、この「メモ帳」アプリの現象そのものなのか?
いや、それはあまりにも安易な考えだ。
そんなことを考えているうちに、僕は学習塾の、消毒液と古い紙の匂いが混じったような独特の匂いを嗅ぎながら、あることに気づき始めた。
この学習塾の、すべての「普通」が、私にとって「異常」である可能性。
例えば、窓から見える、いつもの風景。
でも、よく見ると、いつもはなかったはずの、見慣れない影。
いや、影ではない。
それは、まるで、遠くからこちらを「見ている」ような、人の形をしていた。
しかし、それはあまりにも遠く、ぼやけている。
「もしかしたら、これは、遠くの建物の窓に映った光の反射…」
そう思おうとした、その時。