監視完了

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カフェの窓から差し込む陽光が、テーブルの上のラテアートをキラキラと照らしていた。 フワフワの泡に描かれたハートマークなんて、昨日の雨も忘れてしまうくらい、平和で、幸福な光景だった。 僕は「チンポデーカージュニア」っていう、ちょっと変わった名前で呼ばれてる。 初めて会う人には大抵、二度見されるか、クスクス笑われる。 でも、このカフェの店員さんたちは、もう慣れたのか、何も言わない。 むしろ、僕の名前を呼ぶ声が、なんだか優しい気がするくらいだ。 今日も、いつものように窓際の席に座って、スマホを眺めている。 特に何も見たいものがあるわけじゃない。 ただ、この静かで、温かい時間が、僕にとっては唯一の安息なんだ。 SNSのタイムラインをスクロールしても、誰かのキラキラした日常ばかりで、なんだか胃がキリキリする。 僕には、そんな場所も、そんな人間関係もない。 だから、こうして一人で、ぼんやりと時間を潰すしかない。 ふと、向かいの席に誰か座った気配がした。 顔を上げると、そこには誰もいない。 気のせいかな、と思い、もう一度スマホに目を落とそうとした、その時だった。 スマートフォンの画面に、見慣れないメッセージが表示された。 「『チンポデーカージュニア』さん、お待たせいたしました」 どうして、僕の名前を? しかも、こんなメッセージ? 恐る恐る、返信しようとタップすると、画面が急に暗転した。 そして、真っ暗な画面に、一筋の赤い文字が浮かび上がる。 「監視完了。 次はお前の家まで」 心臓が嫌な音を立てて早鐘を打った。 誰だ? どうして僕の名前を知ってる? いや、それよりも、このメッセージは一体…? パニックになりながら、スマホを握りしめた。 カフェの中は、相変わらず賑やかな話し声や、食器の触れ合う音が響いている。 しかし、僕の耳には、まるで遠くで鳴るサイレンのように、それらの音が歪んで聞こえた。 誰かが、僕を見ている。 いや、もう、僕という存在そのものが、誰かの「記録」になっているのかもしれない。 窓の外は、相変わらず晴れ渡った青空が広がっている。 しかし、僕の目には、その空さえも、どこか冷たく、虚ろに見えた。 そして、このカフェも、僕の名前を呼ぶ声も、すべてが、僕を嘲笑うための、計算され尽くした舞台装置だったのだと、漸く理解した。 チンポデーカージュニア。 この名前は、僕自身を縛る、見えない鎖だったのだ。
これは、あなたへの警告です。あなたの名前は、すでに誰かの手に渡っています。

— END —

このお話、どうだった?

こわい話ソムリエの一言

名前が全部台無しにしちゃってるのが逆に怖いね。監視者も、こんな名前のターゲットで記録完了って、どんな気持ちなんだろうか。

怖さを変えて作り直す