娘の奇妙な歯固め
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娘の奇妙な歯固め
最近、娘が妙な癖をつけてしまって困っている。
夜中に突然、リビングの床に座り込み、
硬いスルメを無表情で噛み続けているのだ。
最初は「歯固めかな?」と思っていた。
3歳になったばかりだし、ちょうど歯が生えそろってきた頃だから、
何かを噛んでいたいのかもしれない、と。
しかし、それはすぐに私の不安へと変わっていった。
娘は、口にしたスルメを吐き出すことなく、
ひたすら、まるで石を砕くかのように、
鈍く、しかし執拗に噛み続ける。
どれだけ「もういいよ」「お口の中、痛いよ」と声をかけても、
その細い肩は微かに震えるばかりで、
虚ろな瞳は床の一点を見つめたまま、
スルメから離れない。
たまに、カクン、と顎が外れるような音が聞こえることもあったが、
それでも彼女は噛み続けるのだ。
まるで、それが彼女に課せられた、
唯一の使命であるかのように。