峡谷の囁き、橋の哭き声
1
大学のゼミで、私は帝釈峡の国民休暇村へフィールドワークに出かけることになった。
テーマは「景観と人間心理の相関」。
引率の教授は、地形学の権威である〇川先生。
集まったのは、私を含め、計5人の学生。
皆、どこか浮かない顔をしていた。
前日、SNSで奇妙な噂を目にしたからだ。
休暇村の近くにある、有名な「〇水橋」で、夜になると不気味な鳴き声が聞こえるという。
それは、まるで泣いているかのような、あるいは何かを必死に訴えかけているかのような、形容しがたい音だった。
地元では、昔から伝わる「橋姫」の仕業だとか、あるいは、峡谷に迷い込んだ「スカンク」が、その特有の臭いと共に不快な音を発しているのだ、という憶測が飛び交っていた。