峡谷の囁き、橋の哭き声

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大学のゼミで、私は帝釈峡の国民休暇村へフィールドワークに出かけることになった。 テーマは「景観と人間心理の相関」。 引率の教授は、地形学の権威である〇川先生。 集まったのは、私を含め、計5人の学生。 皆、どこか浮かない顔をしていた。 前日、SNSで奇妙な噂を目にしたからだ。 休暇村の近くにある、有名な「〇水橋」で、夜になると不気味な鳴き声が聞こえるという。 それは、まるで泣いているかのような、あるいは何かを必死に訴えかけているかのような、形容しがたい音だった。 地元では、昔から伝わる「橋姫」の仕業だとか、あるいは、峡谷に迷い込んだ「スカンク」が、その特有の臭いと共に不快な音を発しているのだ、という憶測が飛び交っていた。
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怖さを変えて作り直す