くーちゃんの泣き声
1
最近、近所の公団住宅で奇妙な噂が流れている。
誰もいないはずの部屋から、子供の泣き声が聞こえるというのだ。
最初は風の音か、誰かのいたずらかと思っていた。
しかし、その噂は徐々に広がり、今では住民たちの間で囁かれる「現象」となっていた。
俺たち「普通家族」も、この公団に住んでもう十年になる。
妻と小学生の娘、そして俺。
どこにでもいる、ごく普通の家族だ。
だから、最初は他人事のように聞いていた。
ところが、先週から、俺たちの家でもその現象が起こり始めた。
娘の部屋から、微かに、本当に微かに、泣き声のようなものが聞こえるようになったのだ。
妻は「きっと疲れてるんだわ」と気にも留めなかったが、俺はどうも気になった。
娘は最近、夜泣きなんてしない。