キャンプ場の悪夢
1
「助けて」
都会から離れた、森に囲まれた静かな場所。
高校最後の夏、僕たちはキャンプ場を訪れていた。
夜、焚き火を囲んで語り合っていると、遠くから 銃声 のような音が響いた。
最初は花火だと思った。だが、数分おきに、不規則な間隔で鳴り続ける。
次第にその音は、すぐそこまで近づいてくるように感じられた。
皆で顔を見合わせた。
「気のせいだよな」
強がりながらも、背筋には 冷たいもの が走っていた。
夜が更け、テントで眠ろうとしていた頃。
再び、銃声が聞こえた。
今度は、かなり近く。
テントの、すぐ外で鳴っているかのようだ。
恐怖で身動きが取れない。
息を潜めていると、テントのファスナーが ゆっくりと、ゆっくりと 開けられた。
そこに立っていたのは、血まみれの制服 を着た警官。
その手には、銃 が握られている。
「ど、どうしたんですか?」
震える声で尋ねると、警官は 虚ろな目 でこちらを見つめ、何も言わずに銃口をこちらに向けた。
その時、森の奥から けたたましい咆哮 が響き渡った。
巨大な熊が、数頭の仲間を引き連れてこちらに向かってくるのが見えた。
警官は熊の方に銃を構え、乱射 し始めた。
銃弾は的を外れ、木々に当たり、不気味な音 を立てて森に吸い込まれていく。
熊たちは怯むことなく、こちらに向かってくる。
警官は一人、また一人と倒れていく。
悲鳴、銃声、そして熊の咆哮が入り乱れ、辺りは 地獄絵図 と化していた。
僕は恐怖のあまり、ただテントの中で震えていることしかできなかった。
どれくらいの時間が経ったのか。
やがて銃声が止み、熊たちの唸り声だけが響くようになった。
静寂が訪れたのは、夜明けが近い頃だった。
恐る恐るテントから這い出すと、そこにあったのは、惨劇の跡だけだった。
血だまり、散乱した銃弾、そして、無残な姿になった友人たちの亡骸。
警官の姿はどこにもなかった。
ただ、熊たちの足跡 が、無数に地面に残されていた。
そのキャンプ場から生きて帰れたのは、僕一人だった。
事件後、警察の捜査が入ったが、警官の失踪と、熊の異常な凶暴化の原因は特定されず、結局、自然災害として処理された。
数年後、僕はこの出来事を忘れるために、あのキャンプ場とは全く別の、もっと辺鄙な山奥にあるキャンプ場を訪れていた。
夜、焚き火を囲み、友人たちと昔話に花を咲かせていると、遠くから 銃声 のような音が聞こえてきた。
友人たちは「またかよ」と笑い飛ばしていたが、僕はその音を聞いた瞬間、全身に 鳥肌 が立った。
なぜなら、その銃声は、かつて警官が撃っていた、あの独特の、間隔の空いた 不規則なリズム だったからだ。
そして、すぐさま背後から、あの時と同じ、しかし更に間近に迫る、熊の咆哮 が聞こえた。
振り返ると、そこには、あの日の血まみれの警官が、銃を構え、穏やかな笑顔 で立っていた。
その隣には、もう一匹の熊が、まるで獲物を待つように、静かに座っていた。
彼らが僕を待っていたのだ。
あの時、僕が彼らを「助け」たから。
僕は、ここで永遠に、警官と熊に囲まれ、歌い続けることになったのだ。
彼らの歌は、止まらない。
なぜなら、彼らの歌は、僕の歌でもある のだから。
彼らの歌は、永遠に鳴り響く。
— END —
このお話、どうだった?