病室の異形

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友人の入院 それは、高校時代の友人K君が入院していた病室での出来事だった。 彼は事故で足を骨折し、しばらくの間、病室で過ごすことになったのだ。 見舞いに行ったのは、入院してから一週間ほど経った頃だった。 夕暮れ時で、病室には薄暗いオレンジ色の光が差し込んでいた。 K君はベッドの上で、辛そうに顔を歪めながらも、どこかぼんやりとした表情をしていた。 「大丈夫か?」 声をかけると、K君はゆっくりとこちらに顔を向けた。 「ああ、なんとか…」 その時、俺は病室の隅にある、カーテンで仕切られた空間に目をやった。 そこは、おそらく看護師が使う備品置き場か、あるいは患者が一時的に着替えるための場所なのだろう。 カーテンは閉められていた。 ふと、カーテンの隙間から、人の気配を感じた。 いや、気のせいだろう。 単に、K君の家族か誰かが、奥で休んでいるだけなのかもしれない。 だが、その気配は消えなかった。 むしろ、こちらに近づいてくるような、妙な気配だった。 カーテンの奥で、何かがゆっくりと動いているような、衣擦れの音のようなものが聞こえた気がした。 「誰かいるのか?」 K君に尋ねると、彼は首を横に振った。 「いや、誰もいないはずだけど…」 その瞬間、カーテンがゆっくりと、まるで誰かの手によって開けられたかのように、かすかに揺れた。 そして、その隙間から、信じられないものが現れた。 それは、一人の女性だった。 いや、女性というにはあまりに異様だった。 全裸だった。 そして、その姿は、どこか歪んでいた。 彼女は、俺たちのいる方向をじっと見つめていた。 その目は、光を失ったかのように虚ろだった。 そして、ゆっくりと、その手は… 俺は言葉を失った。 K君も、ただ呆然と、その光景を見つめている。 彼女は、その歪んだ手で、自らの体を弄んでいた。 病室に、湿ったような、いやらしい音が響き渡る。 それは、生命の躍動とはかけ離れた、虚ろな行為だった。 恐怖で体が凍りついた。逃げ出したい。 しかし、足が動かない。 K君も、ただベッドの上で震えているだけだった。 どれくらいの時間が経ったのだろうか。 彼女は、唐突にその行為を止めた。 そして、ゆっくりとこちらに顔を向けた。 その顔は、先ほどまでとは打って変わり、まるで別人のようだった。 いや、別人の顔をしていた。 それは、俺の顔だった。 いや、違う。それは… 俺は、必死に目を閉じた。 そして、ゆっくりと目を開ける。 病室は、静寂に包まれていた。 カーテンの奥に、誰かがいる気配も、音も、何もなかった。 ただ、俺とK君だけが、そこにいた。 「…なんだったんだ、あれは」 K君が、震える声で言った。 俺は、何も答えられなかった。 ただ、あの虚ろな目と、歪んだ手、そして自分の顔をした誰かの顔が、頭から離れなかった。 数日後、K君は退院した。 その後、俺たちは顔を合わせることはなかった。 時々、あの夜の出来事を思い出す。 あの病室の、あの異様な光景を。
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怖さを変えて作り直す