冷蔵庫の「中」

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退勤後、まっすぐ自宅に帰るつもりだった。 だが、あまりに疲れていたのか、はたまた週末の開放感からか、なんだか無性に「一杯」やりたくなった。 居酒屋に入るほどでもない、でも、ちょっとだけ気分転換したい。 そんな時、ちょうど良いのが、あの、ヨドバシカメラのホーム家電コーナーだ。 そこには、最新のコーヒーメーカーや、光るケトル、そして、あの、巨大な冷蔵庫が並んでいる。 ずらりと並んだそれらを見ていると、まるで自分の部屋にも、こんな便利で、なんだか高級なものが置けるんじゃないか、という気になってくる。 俺は、一段と冷たい、あの、でかい冷蔵庫の前に立った。 ピカピカと光るステンレスの扉。 その前に立つと、なんだか自分が、これからここで快適な生活を送る人間になったような、そんな錯覚に陥る。 「うーん、一杯…」 俺は、まるで風呂上がりに一杯やっているかのように、冷蔵庫の冷たい扉に額を押し当てて、深呼吸をした。 ひんやりとした金属の感触が、火照った額に心地よかった。 その時、冷蔵庫の扉が、ほんのわずかに、内側へ向かってへこんだ気がした。 気のせいだ。 それほどまでに疲れているのだろう。
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怖さを変えて作り直す