そのアパートの二階の部屋に引っ越してきてから、妙なことが始まった。
僕は都心から離れた郊外の、築30年近い安アパートに住んでいる。
家賃は安いが、何より静かなのが気に入っていた。
隣室の住民が誰なのか、全く気配がしないのだ。
ただ、一つだけ奇妙な癖があった。
時折、深夜に、遠くから、何かを擦り潰すような、そして微かに甲高い「ヒッ」という声が聞こえてくるのだ。
まるで、誰かが固いものを指で強く押し潰している音のようだった。
僕はそれを気のせいか、あるいは上の階の誰かが変なペットを飼っているのだろうと片付けていた。