墓守の威勢のいい幽霊
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大学のゼミで、私は「現代における民間信仰」というテーマで卒論を進めていた。
都市伝説やSNSで拡散される怪異、あるいは失われゆく伝承への興味から、私は各地の小さな神社や祭りを巡るようになった。
そんな中、ある過疎地の共同墓地で奇妙な話を聞いた。
「うちの村には、墓守の幽霊がいるんです。
でも、ただの幽霊じゃない。
やたらと元気で、おしゃべりでね。
まるで、墓石に宿った『威勢のいい幽霊』って感じなんですわ」
そう教えてくれたのは、墓地の管理を長年務める老紳士だった。
彼は、その幽霊とでも言うべき存在が、村の入り口にある古い鳥居のたもとにある、という。
鳥居には「いらっしゃせー」と、かすれた文字で書かれていた。
「たまに、迷い込んできた若者なんかに、『お前さん、どこから来たんだ? ちゃんと参拝したのか?』とか話しかけてくるらしいよ。
でも、怖いことは何もしない。
むしろ、村の賑わいを喜んでいるような、そんな感じなんだ」
奇妙だったのは、その幽霊が、時折、村の産物――例えば、採れたての野菜だとか、手作りの漬物だとか――を、墓石の脇にそっと置いている、というのだ。
まるで、訪れる者への「お土産」のように。