19.2秒の儀式
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卒業式の日。
私は、市長が壇上で卒業証書を授与する様子を、
ライブ配信で見ていた。
定刻通り、市長は用意された卒業証書を手に取った。
しかし、その瞬間、市長の指が微かに震え、
証書がわずかに傾いた。
画面越しでもわかる、ほんの19.2秒ほどの出来事だった。
市長はすぐに平静を取り戻し、
次々と卒業生に証書を渡していった。
数日後、SNSで「市長の怪現象」と話題になっていたのを
偶然見つけた。
何人かが、私の見たのと全く同じ瞬間を捉えた
スクリーンショットを投稿していた。
写真には、証書を持つ市長の指先に、
不自然な影のようなものがまとわりついているように見えた。