猿と黄金のバナナ
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「これでいいのかな?
何度やっても、この『きんいろのバナナ』の場所が分からないんだよ」
私は、動物園の受付カウンターの片隅で、手書きの地図とにらめっこしていた。
昨晩、亡くなった祖父の遺品整理をしていて、この奇妙な地図が出てきたのだ。
祖父は晩年、認知症を患っていたが、時折、妙に明晰な瞬間があり、この地図もそんな時に描いたものらしかった。
地図には、現在地である動物園の受付らしき場所から、いくつか奇妙な記号とともに線が引かれていた。
「ライオンの檻」「ゾウの滑り台」といったお馴染みの場所を通過し、最終的に「きんいろのバナナ」と書かれた地点を目指すルートが示されている。
「まさか、本当にどこかにあるんじゃないだろうな」
冗談めかして呟きながら、私は受付の裏手にある、普段は使わない倉庫へと足を向けた。
地図の指示通り、古いホワイトボードの裏を通り、さらに奥へ進むと、そこには記憶にない小部屋があった。
ドアノブを回そうとしたが、鍵がかかっている。
途方に暮れて壁にもたれかかると、背中に硬い感触があった。
見ると、古びた自動販売機が鎮座している。
「こんなところに自動販売機なんてあったっけ?」
疑問に思いながらも、その表面に描かれた奇妙な絵柄に目を奪われた。
それは、どこか懐かしい、でも見たことのないような、妙にリアルな猿の絵だった。
そして、その猿が、信じられないことに、流暢な英語で何かを話しかけているように見えたのだ。
『Hurry up! The golden banana awaits!』
「えっ?」
思わず声が出た。
自動販売機が喋った?
いや、そんなはずはない。
きっと疲れているんだ。
そう思い、私はもう一度ドアノブに手をかけた。
すると、突然、自動販売機から「ガコン」という音がして、小さな扉が開き、中から、信じられないものが出てきた。
それは、紛れもない、輝くばかりの「きんいろのバナナ」だった。
私は、そのバナナを手に取った。
ずっしりとした重みと、不思議な温かさを感じる。
そして、ふと、背後の倉庫のドアが、ゆっくりと、しかし確実に開いていくのが見えた。
そこから覗くのは、暗闇と、そして、無数の、こちらを見つめる「目」だった。
『Hurry up! The golden banana awaits!』
再び、あの自動販売機からの声が聞こえた。
今度は、先ほどよりはるかに大きく、はるかに響く声だった。
倉庫のドアがさらに開き、倉庫の奥から、巨大な影がゆっくりと現れ始めた。
それは、あの自動販売機に描かれていた猿の、巨大な姿だった。
— あなたはどうする? —